シーティング ~安全・安楽・自立を目指した食事姿勢~ 

安全に食べるためには食事時のポジショニングが必要です。
不良な姿勢は摂食嚥下機能を阻害して誤嚥の原因となり、自立を阻害するといったように食べる障害を引き起こします。
食事姿勢を調整して、良好な摂食嚥下機能を発揮し、安全・安楽・自立を目指した食事を支援しましょう。

食事姿勢を決める

食事時のポジショニングの必要性

食事準備から終了の安静も含め、1~2時間は安定した姿勢の保持が必要です。
また、食事は捕食動作による姿勢の変化があるので、安定と同時に上肢を動かしやすい姿勢に調整する必要があります。

食事姿勢の選定

食事姿勢選定のポイントは以下の通りです。

・姿勢の安定性・耐久性
・頚部の姿勢保持力
・呼吸状態・循環動態
・認知機能
・摂食嚥下機能
・食物形態
・セルフケア能力
・拘縮の有無、部位、程度
・褥瘡の有無、部位など

姿勢の安定性・耐久性、頚部の姿勢保持力

姿勢の安定性・耐久性や頚部の姿勢保持力が低い場合は、ベッドやリクライニング車椅子を使用してリクライニング位にすることで、食事摂取による疲労の軽減、姿勢のくずれを予防する事ができます。

呼吸状態・循環動態

呼吸状態・循環動態が不安定な場合は、離床だけでなく、食事による負荷を含めて医師の指示を確認しながら検討します。

認知機能

認知機能低下がある場合は、リクライニング角度を下げると視覚情報がはいりにくくなって食物認知が低下します。リクライニング角度を挙げて、食物認知を高める姿勢の検討が必要です。

食物形態

リクライニング角度が小さい姿勢では、口腔保持が困難となります。その為、咀嚼が必要な食品を提供する場合、リクライニング角度は50°以上にすることが必要です。食物形態をステップアップする場合は、姿勢のステップアップを併せて検討する必要があります。

機能に合わせたステップアップ

過度な抑制にならないように、適宜機能の評価を行い、ベッド⇒リクライニング車椅子⇒スタンダード車椅子・椅子へと段階的にステップアップを検討します。

拘縮や褥瘡の有無、部位など

痛みや苦痛があると、呼吸の抑制や筋の緊張を招く為、安楽な姿勢が困難となります。苦痛の無い姿勢の検討が必要です。

食事の姿勢調整

確認すべき点と調整のポイント

ずれ姿勢

ずれ姿勢では腹部が圧迫されて嚥下に関連する過緊張を招く為、嚥下運動が阻害されます。また、胸部が圧迫されていると、むせた時に十分な咳ができず、喀出しきれなくなります。さらには上肢の運動が制限されて、食事の自立が阻害されます。
ずれ姿勢とならないように座面に深く座り、骨盤が後傾していないかを確認します。
股関節・膝関節・足関節を90°に調整します。

上肢の安定

上肢の安定を図ることで、左右への姿勢のくずれを予防します。
また、上肢の重さをサポートすることで、頚部の嚥下関連筋への負荷の軽減を図ります。
上肢は軽度屈曲位にします。
また、肩の位置が左右対称になるように調整します。

足底の安定

足底を安定させることで姿勢の安定性も向上し、姿勢のくずれを予防できます。
さらに、踏ん張ることができるようになるため、咀嚼力・嚥下力の向上につながります。
また、咳嗽力が向上し、むせた場合にも喀出しやすくなります。
フットレストを上げ、足底を床面に接地します。届かない場合は、足台を使用します。

テーブルの高さと位置

テーブルの高さを腋下から臍の中間の高さに調整し、身体とテーブルを握りこぶし1
個分程度に近づけて設置すると、上肢の安定が得やすくなります。
また、肘をついた状態で捕食動作が可能となることで、姿勢の崩れも予防できます。
食事摂取による疲労の軽減が図れると、食事の自立につながります。
視線が斜め下方向に向き、食事を自然と見ることができるように調整します。

車いす・椅子での食事姿勢

車いすは移動の道具であるため、背面や座面の傾斜、フットサポートの位置や角度などが移動しやすい構造になっています。そのため、食事時には円背や頚部伸展位となりやすく、食べにくく誤嚥をまねきやすい姿勢となります。
また、長期の使用によって座面や背面のシートにたわみが生じると、姿勢がくずれる要因となります。
座位姿勢では、椅子や車いすの形状による姿勢への影響が大きいため、できるだけ体型に合った椅子や車いすを使用することと、座面、背面のたわみの補正などの調整が必要となります。

食事介助が姿勢に及ぼす影響

高い位置からスプーンが口に入ると、顎が上がって誤嚥しやすくなります。
また、左から右手、右から左手で介助すると、逆手介助となってスプーンがまっすぐ口に入らず、こぼれやすすり食べの原因となります。
食べ物が正面に配置されていない場合に、食べ物を見ようとして頚部が回旋・伸展します。食べ物を患者の正面、目から25~30㎝、斜め下45°あたりに配置することで、視線を誘導して頚部を前屈に調整できます。
また、食べ物が見やすい位置に配置してあることで食物認知が高まり、食事への集中が高まり、食事への集中を高めることができます。

まとめ

誤嚥は、患者の摂食嚥下機能の低下だけが原因ではなく、不良姿勢など不適切な食事環境によっておこる場合もあります。
良好な機能が十分発揮できるように食事姿勢の調整を行って、誤嚥を予防し、安全でおいしく自立を目指した食事を支援していきましょう。