片麻痺患者を観る視点
片麻痺患に対するケアにおいて、姿勢や活動が環境に影響されていることに気づく視点をもち、その視点をケアに生かす方法を紹介します。
片麻痺患者の姿勢
脳卒中の後遺症には、運動障害、感覚障害、言語障害、嚥下障害、高次脳能障害(半側空間無視、失行など)などがあります。
片麻痺患者の姿勢は、非対称で、麻痺側に傾いた姿勢が多いです。
人が姿勢を保つには体幹の活動(安定性やコントロール)を必要とします。
体幹の支持力や持久力が低下している場合は、座位、立位のような重力に抗した状況下では、より非対称でくずれた姿勢になります。
片麻痺患者を観る視点
片麻痺患者の車いす姿勢をみて、片麻痺だから傾いた姿勢になるのは当然であると思われているかもしれません。
しかし、よく見ると理由はそれだけではない可能性があります。
それは、座っているものの影響です。つまり車いすに座った姿勢では、車いすが座位姿勢に影響を与えている可能性があります。
体に合わない車いすの使用は、圧迫やずれ、不快感や痛みを生じさせ、姿勢の崩れをまねきます。
また、長時間の座位姿勢は、心身機能に悪影響(疲労、褥瘡、誤嚥、筋緊張亢進など)を及ぼすといわれています。
以上のことから、片麻痺患者のケアでは身体面の観察とともに、ベッド・車いすの機能や構造、介助方法といった、患者を取り巻く環境の観察が必要です。
これが環境から人を見る視点であり、ICF(国際機能分類)の観点が必要です。
ベッド上での姿勢・活動ケア
ポイントは、褥瘡予防と姿勢のケアです。
ベッド上で過ごす時間は、褥瘡発生や嚥下障害による誤嚥のリスクが高くなります。
そのため、マットレスの影響(体圧分散効果、姿勢安定性など)や衣服のシワによる不快感、圧やずれによる痛みなどに気づく視点が必要です。
そこで、臥位における体圧分散ケア(褥瘡予防マット、ポジショニング)を行います。
車いすでの姿勢・活動ケア
片麻痺患者では、車いすで過ごすことによる障害の予防と、車いすなど環境からの影響による障害の予防が必要です。
① 姿勢の評価
主に肩や骨盤のラインを確認し、姿勢の傾きやねじれの確認を行います。
方法は、触って確認する・写真を撮って写真にラインを引いて確認する・頭上から確認するなどがあります。
② 調整時のポイント
車いすの支持面は、座面・背もたれ・ひじ掛け・足台です。
この中で、特に重要なのは座面です。
座面には、身体重量の84%近くが荷重し、座位姿勢は座面角度や座面シートの素材・形状の影響をうけます。
座面シートはたいていスリングシート(ハンモック状)になり、たわんでいることが多いです。
このたわみの影響で、骨盤が回旋・傾斜・後傾しやすく、姿勢が崩れやすくなるため、たわみを補正して、座面を調整することが大切です。
また、片麻痺患者は麻痺測上肢の重みの影響で姿勢がくずれるため、上肢のサポートも必要です。
③ 移乗
移乗でのポイントは、患者に合わせた移乗環境の調整です。
寝返りや起き上がり、座位保持、移乗のしやすさなどを考慮したベッドの配置や高さの設定、介助バーの使用などが必要です。
例えば、ひじ掛けが跳ね上げられる車いすや、L字の介助バーの使用や、ベッドを下腿の長さより高めに設定するなどです。
環境面を調整することで、座位保持や立ち上がり、移乗などの活動がしやすくなります。
④ 車いす駆動(移動)
車いす駆動のケアでは、まず体と車いすの寸法を合わせることが大切です。
車いす姿勢には、①座面の高さ、②座面の幅や奥行き、③座面の角度などが影響します。
駆動しやすい条件は、
・座面が水平に近い
・座面シートにたわみがない
・足がしっかり床につく高さである
・こぐ足の膝が曲がりやすい
です。
また、座面や背もたれに麻痺側や体幹をサポートするための工夫が必要です。
終わりに
中枢神経障害による片麻痺を改善することは難しいですが、同一姿勢で過ごす時間の調整や管理、ポジショニングや移乗、シーティングといった生活環境の調整や工夫でアプローチすることが可能です。
目の前の患者に起こっている問題が、疾病の影響だけでなく、「環境による影響ではないか?」という視点を持ち、生活全般をとらえることが重要です。