失語症の看護

失語症とは

失語症は「話す・聞く・読む・書く」ことの障害です。
話せない、言葉が理解できない、書けないということです。

おもな失語症

ブローカー失語:発話の障害が重度。聴覚理解は比較的良好だが複雑な内容は理解できない。
ブローカー野は左前頭葉にあります。
ブローカー失語は、思った言葉を話すことができなくなる失語症です。
ウェルニッケ失語とは異なり、人の話を理解することはできます。


ウェルニッケ失語:発語は流暢で構音も保たれるが、錯語が多く、内容は意味不明となることが多い。
ウェルニッケ野は左側頭葉にあります。
側頭葉に届いた情報は、ウェルニッケ野に向かい意味が認識されます。
この過程に損傷が生じると、聞いた言葉の意味が分かりません。
これがウェルニッケ失語です。


伝導失語:自発語は流暢だが音韻性錯誤が多い。
聴覚理解は良好だが複雑な内容は理解できない。
ブローカー野とウェルニッケ野をつなぐ線維の障害で発生する。


健忘失語:自発後は流暢だが語想起が困難。物品の呼称障害が目立つ。
言語理解は良好。
復唱は比較的良好だが、長文では障害が生じる。


全失語:自発語は非流暢で少なく、聴覚理解、復唱、読解、書字などすべての言語機能に重度の障害が生じる。


失語症に関係するブローカー野やウェルニッケ野などの言語野は、右利きの場合、95%が左大脳にあります。
左利きでも70%は言語野が左大脳半球にあります。
残り30%の左利きの方は、右大脳半球の損傷で失語症を発症します。

一般に失語症は利き手が麻痺した場合に発症します。
右利きの場合、右片麻痺失語症を合併しやすいです。
左利きであれば、左片麻痺失語症が合併します。

ところが、右利きの人が左片麻痺とともに失語症を発症することがあります。このような患者の場合は、言語野が右大脳半球にあるといえます。左利きではその逆となり、このような失語症を交叉性失語といいますが、たいへんまれなことです。

失語症にみられる意図性と、自動性の解離現象


命令されるなどで意図的に言語を発声しなければならない場合にはうまくできないが、自然な状況では、発生ができるという現象。
程度の差はあるが、失語症者一般にみられる現象です。

看護のポイント

言語環境の整備

「人」は言語環境の一つです。

患者にかかわるスタッフは、患者に適したコミュニケーション方法を統一して用います。
これにより、患者はコミュニケーションに対する負担が軽くなり、失敗体験が減ることでより安定した病棟生活を送ることができます。
コミュニケーション方法の統一は、STだけでなく看護師やその他の職種からの情報を収集し、カンファレンスなどで話し合います。

家族指導

退院後を想定して、家族指導を行います。
患者・家族はこれまで「失語症」という言葉をほとんど聞いたことがないため、不安や戸惑いが大きいものです。
STが行っているコミュニケーションの様子を見学してもらい、対話者が果たす役割について丁寧に説明します。
患者にかかわるスタッフがみな同じコミュニケーション方法を用いることで、家族に必要生を実感してもらうことができます。
家族が患者に対するコミュニケーション方法を変えることは容易ではないので、根気よい指導が必要です。

退院に向けて

携帯電話、パソコン、買い物など、退院後に社会とつながる手段のIADLの状況を確認します。
例えば、携帯電話の使用では、待ち受け画面の解除や通話やメールの発信・受信などをやってみて、患者のできる点を見つけます。


病棟での観察・ケアのポイント

病棟での看護師との会話を実用コミュニケーションの場ととらえます。

会話のポイント

状況を加えた会話は理解を促進します。
例えば、「血圧」という言葉にはピンとこなくても、血圧計をもった看護師が「血圧を測ります」と言うと納得されることがあります。
言葉をそれをともなう状況が相まって、患者の理解が容易になります。
外泊日を伝えるときには、カレンダーを指しながら伝えるとよいでしょう。
できれば、カレンダーに記入しておくとなお良いです。

患者の発言を聞くときには、患者の行動・表情・言葉の抑揚・身振りなどを観察し、看護記録や他の情報とを合わせて判断します。
さらに「勘」を働かせるとなお良いでしょう。

患者に伝えたい内容は文字に書いて残します。
看護師が口頭で伝えると患者が理解したようにうなづいてみせても、場が変わると忘れてしまうことがあります。
文字(漢字を主として)や矢印などを使って要点のみを書くようにします。

情報確保のための支援


失語症のため、患者に情報が正しく伝わらないことは多いですが、このことが患者の判断を妨げるという不利益はできるだけ避けたいものです。
医師との面談の内容が把握できているかどうか確認するようにしましょう。
医師との面談は情報量が多く、内容が複雑です。
多くの失語症患者は、その内容を断片的にしか理解できず、断片的に理解できた言葉をつなげて内容を理解しようとします。
行き違いを防ぐために、看護師が面談内容を確認することが必要です。

自宅復帰をみすえたかかわりのポイント


どのように服薬管理をしていくのか確認します。
自分でどこまでできるのか、家族の援助があるのか、援助はどこまでできるのか確認します。
退院後の状況に合わせて、入院中から退院後と同じように練習を始めます。
配薬ボックスや配薬カレンダーなどを使用する場合は、持ってきてもらいます。



コミュニケーションは患者と対話者によって成り立ちます。
機能訓練によってどんなに機能が改善しても、残念ながら障害は残ります。
残った障害を代償する方法として、コミュニケーションの相手である対話者へのアプローチがあります。
対話者次第で患者のコミュニケーションの難易度が変化します。