失禁、頻尿に対しての看護

コンチネンスケア
 「インコンチネンス」…失禁
 否定を表す「イン」をとった肯定形が「コンチネンス」
 広い意味で「排泄のコントロールができている」という意味
 

 定義…「尿もれがあるから失禁なのではなく、それが問題になったときに失禁という。排泄障害があったとしても問題がなく生活ができれば、失禁から解放されたと考えられる。その状態をソーシャルコンチネンス――社会的に排泄がコントロールできた状態と表現する」
 コンチネンスケアは治療に限界が生じてもケアでカバーする、治療できなくても代替の方法でカバーすることに主眼がある。

医師が行う手術や薬の処方だけでなく、「おしも」の問題の解決には、指導や励ましが大きな力となる。

 

尿のトラブルの分類
 尿がもれる
 尿が近い
 尿が出ない(出にくい)
 
日本コンチネンス協会では二つに分けられる

「畜尿障害」…頻尿(おしっこが近い)失禁(おしっこがもれる)など、
「排出障害」…排尿困難(おしっこが出にくい)残尿感(おしっこをした後も膀胱におしっこが残っている感じがする)

 

正常な排尿
 排尿を問題なく行うためには、三つの条件が必要である。

① 尿意を感じたり、トイレの場所がわかる。
② トイレに行って排尿の用意をしたり、排尿後の後始末ができる。
③ 膀胱や尿道が正しく働いて、尿をためたり出したりすることができる。

以上の三つの条件をクリアした上で、日中4~7回、3~4時間の間隔をおいて、1回300ml前後の量を勢いよく残さず出し切ることができる。必要があれば途中で止めることができ、膀胱内に残尿がないのが正常な排尿といえる。
尿量は一日1000~2500ml。
600ml以下や3000ml以上の場合は問題とされる。
夜間の尿量は昼間より少ないが、高齢者では夜間多尿が見られることがある。
性状…淡黄色、透明、軽い尿臭がある
   色が濃すぎたり、血が混じっていたり、濁っていたり、悪臭が強い場合は、何らかの異常があると考えられる。

 

畜尿のしくみ
 膀胱は自分の意志では収縮できない筋肉(平滑筋)でできた袋で、普段は200~500mlの尿をためることができる。

膀胱容量の調べ方…もうこれ以上我慢できないという時まで我慢して、尿量を測る。

普通成人では膀胱容量の半分程度、約100~200ml程度の尿がたまると、たまったという信号が脊髄の下にある排尿中枢に伝わる。その刺激が大脳まで伝わり、大脳からある程度まで排尿を我慢するよう指示が出る。大脳が排尿をまだしてはだめだよというサインを送っている間は、膀胱はそのまま拡がっていて、尿道が逆にしっかり締まっている。尿道の周囲には外尿道括約筋という筋肉があって、尿道を締めるように働いている。尿意を感じてから、いよいよ我慢できなくなり、トイレで下着を下ろすなどの準備を完了させ、大脳から排尿をしてもいいよと、排尿への抑制がとれてはじめて排尿をすることになる。膀胱と尿道は拡げると締まるという点で相反する働きをしている。それを複雑な神経の働きでコントロールしている。

 

排尿のしくみ
 トイレで下着を下ろし、排尿できる状態になると、それまで大脳から出されていた排尿の抑制が解かれて、今度は排尿させる刺激に変わる。排尿をするためには、膀胱の排尿筋は収縮して尿を押し出し、尿道の括約筋を開いて栓を開け放つ。
 正常な排尿では、出したいときに出せ、膀胱に残尿は残らない。例えば尿検査で排尿を途中で止める必要があるようなときに、ある程度自由に止められるのが正常。だがこれは男性にとっては当たり前のように感じられるが、骨盤底筋の緩みやすい女性にとっては大変なことなのだ。実際に骨盤底筋が緩むとそれができなくなる。
尿を全部出し切って残尿がないということも大切。年をとってとくに男性で残尿が多くなることがある。残尿の正常範囲は50ml以下。(高齢者の場合、残尿100ml以下なら問題なしともいわれている)

 

尿道――男女の違い
男性…尿道の長さ…15~20㎝前後 女性より長いうえ、2か所で曲がっている
  前立腺尿道のまわりをぐるりと取り巻いている。
  前立腺肥大→尿道が締め付けられて排尿の勢いはさらに悪くなる。
  男性の場合、加齢とともに構造的に排尿が出にくくなりやすい。

女性…尿道の長さ…3~4㎝ 男性と比べて短く、曲がっていない。
   男性のように内部で支えられておらず、骨盤底筋群が体内の臓器が下がってこないように支えている。
   出産等によって骨盤底筋群が弱くなると、体内の臓器が下がってくると同時に尿道も締まりづらくなり、尿がもれやすくなる。
   男性に比べ、女性に尿失禁が圧倒的に多いのはこのためである。

 

尿失禁
 排尿の意志に関係なく、あるいは我慢したいのに尿がもれてしまうことを尿失禁という。
 尿失禁は
① 膀胱や尿道の問題によって起きる尿失禁
② 尿意を感じたり、トイレの場所がわからないで起きる尿失禁
の二つに分類される。
 
① の場合 尿道に問題がある腹圧性尿失禁
     膀胱に問題がある切迫性尿失禁
     尿道以外から尿が出る尿道外尿失禁
     膀胱から尿をきちんと出せない溢流性尿失禁 の四つのタイプがある。
② は機能性尿失禁といわれている。

 

腹圧性尿失禁
 腹圧がかかったときに生じる尿失禁の症状からつけられた呼び名。膀胱に尿をためている間、しっかり閉まっているべき尿道を締める筋肉が弱いと咳やくしゃみ、大きな声を出す、笑う、テニスなどのスポーツ、重い物を持ったときに尿がもれることがある。これは圧倒的に女性に多い。健康な中高年女性の尿失禁の60%はこのタイプだ。もれる程度は千差万別で(スポーツなど特別強い腹圧がかかった時だけもれる人から、立っただけでもれる人まで)、頻度もさまざま(たまにもれる~毎日何度ももれる)である。
普段、夜間睡眠中や横になっている時はもれないし、頻尿もない。
尿もれは女性の場合、40歳を過ぎた頃から増え始め、遅かれ早かれほとんどの女性に起こると考えられる。排尿を止める尿道括約筋がもともと男性より弱く、何度か出産するうちに骨盤底筋肉群も弱ってくるからだ。さらに加齢とともに膀胱からでている尿道の角度が鈍角化し、膀胱内の尿の重さが尿道方向にかかりやすくなることも影響している。
骨盤底筋とは骨盤の底部にハンモックのような状態で位置し、子宮や膀胱および腸などの内部臓器を支える役割を果たす筋肉群。これらは尿や便の排泄にかかわると同時に、膀胱や尿道および膣、肛門を引き締め、尿漏れや便漏れを予防する役割を果たしている。
 中年以降の女性に尿漏れの訴えが多いのは、加齢に加えて出産や肥満などが原因となり、骨盤底筋が衰えて緩みがちになるためである。骨盤底筋が緩むことにより、膀胱や尿道、肛門を引き締めることができなくなり、出口が開きやすくなって漏れが生ずる。また、座った姿勢で同じ作業を繰り返す人も骨盤底筋が緩みがちとなる。骨盤底筋を鍛えることにより、尿漏れを予防することができるほか、軽微な尿漏れが改善される効果もみられる。骨盤底筋の鍛錬方法として、さまざまな姿勢をとって肛門と膣をゆっくり締めたり緩めたりすることを繰り返す骨盤底筋体操が考案されている。

 

切迫性尿失禁
 自分では排尿しようと思っていないのに膀胱が勝手に収縮してしまうと、尿を我慢できずにもれてしまう。強い尿意とともにトイレまで間に合わず、もらしてしまうのを切迫性尿失禁という。
この場合は膀胱には少しの尿しかためられないため、1回の排尿量は100~200mlと少ない。たいていは尿意切迫や頻尿をともなっている。
原因となる疾患は、脳血管障害・パーキンソン病前立腺肥大症等があげられる。中高年女性では原因が特定されないことが多い。
切迫性尿失禁の場合、膀胱自体は小さく固まってしまったわけではなく、刺激に対し膀胱が過敏になった状態である。
これに対して、膀胱自体が硬くて小さくなってしまった場合も尿がもれる。このように拡がりくくなった膀胱を「低コンプライアンス膀胱」という。
原因は、脊髄損傷後遺症、バルーンカテーテルの長期間留置、放射線照射後の萎縮膀胱、間質性膀胱炎などがある。

 

尿道外尿失禁
  生まれつきの障害や手術、放射線治療によって尿管や膀胱が膣とつながってしまうとおしっこが直接膣から出ることがあり、これを尿道外尿失禁という。
  まれな病気だがいつも下着が尿でぬれているという女児や若い女性は一度は疑ってみる必要がある。

 

溢流性尿失禁
  膀胱から尿を出し切れず、膀胱内に残尿があったり、膀胱自体が硬いために膀胱内の圧が高くなると尿ががあふれ出すようににもれてしまう。溢流性尿失禁というには、残尿の確認や膀胱の拡がりにくいことの確認が必要である。
排尿するときに、膀胱が収縮しないことに原因がある場合(原因は子宮がん・直腸がんの手術後、糖尿病、脳血管性障害など)と、尿道に原因がある場合(前立腺肥大症などで尿道に抵抗がある)とがある。

 

機能性尿失禁
  膀胱や尿道に症状がなくて、認知力が低下したり、手足の運動機能の障害によって起きる尿失禁を機能性尿失禁という。
  尿意がはっきりしない、尿意をうまく伝えられない、トイレの場所や尿器がわからない、ズボンのチャックの下ろし方を忘れてしまったなどで、尿失禁になる。トイレまで行けない、行けても時間がかかり過ぎる、排尿の姿勢がとれない、排尿の準備や後始末ができない、などで尿がもれてしまうようなときも、機能性尿失禁という。

 

頻尿 
 起きている間に8回以上、8時間の睡眠中に3回以上トイレに行く場合は、頻尿といわれる。

頻尿は病態により次の三つに分けられる。

 

① 尿量が多くて頻尿になる(多尿)
たくさんの水分をとったり、利尿剤のために尿量が増えて頻尿になる。腎不全のある時期、尿崩症、糖尿病などで病的に尿量が増えることもある。抗精神病薬、抗コリン薬など薬剤により口渇のため多飲となり、多尿になることもある。

 

② 膀胱の容量が小さくなったり、刺激に対して膀胱が過敏になって膀胱がおしっこを十分にためられずに頻尿になる。
いつでも排尿量が150ml以下となっている場合は膀胱容量が小さいといえる。
萎縮膀胱(放射線照射後・バルーンカテーテル留置・間質性膀胱炎・脊髄損傷後の神経因性膀胱)
炎症による刺激(膀胱炎・前立腺炎など)
その他の刺激(尿管末端の結石・膀胱結石・膀胱内の異物)
大脳からの刺激の亢進(脳血管障害・パーキンソン病など)
残尿による膀胱容量の減少(高度の排尿困難を起こすすべての疾患)

過活動膀胱
 最近注目されている。
 不意に現われる尿意切迫感がある。通常は頻尿と夜間頻尿をともなう。
 悪化すると尿失禁を起こす。
 原因が特定できないことも多い。
男女を問わず、出現頻度が非常に高い。加齢とともに増加する。
炊事洗濯などの冷たい水刺激やドアノブに触っただけで強い尿意を感じ、失禁してしまうこともある。
過活動膀胱という診断がついたときは、少し尿意があっても我慢するようにして、膀胱を少しずつ鍛えていくという方法がある。
次の排尿まで3時間間隔を開けられることが一つの目安になる。尿をためる練習をすることで、再び膀胱の伸びる力を取り戻す。しかし頻尿の原因が、細菌感染や前立腺肥大症による残尿などの場合には効果がないばかりか、症状を悪化させるので、医師の診断を受け、どのタイプの頻尿かを確認する必要がある。

夜間頻尿も分類としてはここに入るものが多い。
 原因…夜間多尿、膀胱容量の減少、前立腺肥大症、過活動膀胱、睡眠障害など
     ↓
    夜間多尿は高齢者に多い。

夜間尿とは…就寝後から起床時1回目までの尿量の合計をいう。
    一日の尿量の3分の1以上あると夜間多尿となる。
 夜だけ頻尿、昼間下肢のむくみがある場合は心不全が疑われる。
 中高年男性の夜間頻尿は、しばしば前立腺肥大症によることがある。
  前立腺肥大症であれば薬物(α1ブロッカー)だけで症状が改善される。
  効果がないときは過活動膀胱を合併していることがある。

 

心因性頻尿
尿量も膀胱容量も正常なのに頻尿である場合は、心因性頻尿ではと疑われる。
神経障害や膀胱機能障害がないときに限ってこの病名が用いられる。

 

排尿日誌の活用

〇目的
・排尿や飲水のパターンを把握する
・排尿障害のタイプを予測する
・ケア方法の検討に活用する
・治療やケアの評価をする
・患者が自身の排尿の状態を知り、モチベーションを維持する

 

〇原則
・最低24時間、可能なら3日以上、連続して記録する
・排尿時刻、排尿量(自排尿、失禁量、導尿量は区別)を記録する。
・その他、飲水量(時刻、内容)、起床時刻、就寝時刻、随伴症状、どんなときに漏れたか、尿意(有無、強さの程度)、誘導時の状況など、予測される排尿障害のタイプや状況に応じて必要な情報を記録する
・日中排尿回数→起床後~就寝前の排尿回数
・夜間排尿回数→就寝後~起床前の排尿回数
・日中尿量→起床後2回目~就寝前までの尿量の合計
・夜間尿量→就寝後~起床後1回までの尿量の合計

 

排尿日誌の読み方
(1) 尿の回数(昼間、夜間)
(2) 最大排尿量(表の中で一番多かったときの排尿量)
(3) もれた回数
(4) どの時点でもれるか
(5) 水分摂取量