車いすin回リハ病棟

病院内で当たり前に使用されている車いすですが、車いすには多種多様な車いすがあります。
回復期リハビリテーション病棟では患者さんに合った車椅子の選定は、セラピストが行っています。
ここでは患者さんの移動を育む車いすの選択のコツ、使用時の観察点について実践的な内容をまとめました。

車いす使用の意義


人が自分の道具として車いすを使用する場合、その目的は「安全な範囲で最大限の活動をすること」と言えます。

患者さんが支えなしで座ることができない段階では、車いすで支えを作って座ることは最大限の活動となります。

車いす使用の目的は、①リハ室などへの移動 ②退院準備としての試用 ③病棟でのリハ機器的活用です。
患者さんは回復期リハビリテーション病棟で初めて「自分の道具」として車いすを体験しますが、たとえ、体に合わない車いすでも操作方法を学習してしまうので、目的②や③の場合、入院早期から調整が必要です。

目的③については、リハビリ室で過ごす時間と同様に、病棟での活動時間も重要です。これは、生活期に車いす使用が予想される患者さんだけでなく、在院中に歩行移動に移れる患者さんにとっても有効です。

車いすの種類と選択のポイント


健康状態を維持増進しつつ、その時点での患者の「身体機能」と「身体構造」の状態に応じた適切な車いすを選択する必要があります。

患者の個別性から考える

身体機能


座位保持ができない患者さんに対しては、座位を可能にするシーティングが必要です。
一方で、患者さんが足駆動をするとして、足駆動ができるような座面の高さの車いすが必要です。

身体構造


患者さんの体格は様々であり、加えて、円背や四肢の関節拘縮など、多様な「身体構造」にも対応する必要があります。
日中の生活時間の多くを車いす上で過ごすためには、姿勢が崩れないこと、褥瘡が発生しないこと、身体各所の拘縮や疼痛が発生しないこと、摂食・嚥下、消化・排泄、呼吸などに悪影響を及ぼさないことなど、健康状態の低下を招かないことも必要になります。

回復期リハビリテーション病棟に必要な車いすとは


病院の備品で完璧に患者さんの状況に適合させることは困難です。
それでも、最低限、体格に合わせるためには、モジュラー型などと呼ばれる、各部が調整可能な車いすが必要です。
一般的なモジュラー型車いすは、シートの高さ・奥行き・バックサポートの角度・車輪軸の取り付け位置などが変えられるほか、フットレストやアームレストが着脱可能で、バックサポートに張り調節機能がついています。
シート幅は変えられる車いすは少ないので、あらかじめシート幅の異なるものを用意しておくと便利です。
また、シート高が最も低くなるように設定しても足が床につかない小柄な患者さんもいるので20インチや18インチの後輪のものがあると便利です。
また、褥瘡予防の観点からも姿勢保持の観点からも、ほとんどの患者に座クッションが必要です。

回復期リハビリテーション病棟看護師が車いすを使用する際のポイント


車いすを利用する前に、使用目的や使用時間などを設定した個々のシーティング計画を立てましょう。また、個々に合った車椅子を提供することで、座位姿勢がもたらすトラブルを予防できます。
この2点を確実に行えば、個別機能訓練以外の時間が患者・ケアスタッフともに有意義な時間になるだけでなく、廃用性症候群を含めた二次障害に対する治療時間やコスト流出を高い確率で予防できます。


シーティングとは「気持ちよく座ってもらうこと」です。
身体状況だけでなく、座る環境(車いす、座位保持装置、食堂椅子、ソファー)や目的(食事、休憩、作業・学習、移動・散歩、レクリエーションなど)、時間を設定します。
1回の時間は原則120分以内とします。
なぜなら、人体は120分以上椅子に座っていることが困難な身体構造になっているからです。
例えば、講義時間は90分で、映画や芝居は長くても120分、車の運転はおおむね120分に1回は休憩をとります。
使用場面ごとに時間を設定することで、漫然と目的のない座位の提供が予防でき、入院生活にもメリハリがついて能動的に過ごせるようになります。

座位姿勢のトラブルの観察


患者さんに合わせた車いすの選定はセラピストに行ってもらいますが、看護師は患者の座位姿勢のトラブルをよく観察してセラピストに報告することが大切です。
座位姿勢のトラブルとは、例えば、傾いている、前滑りになっている、長時間テーブルに伏している、食事での食べこぼしやムセが激しい、臀部に褥瘡が発生した、「腰が痛い」などの不定愁訴がある、机をたたくなどのイライラ、そして、頻回に立ち座りを繰り返すことなどです。
病棟生活を患者と共にすごしている看護師しかわかりえない変化に気づいて、セラピストに報告するだけでよいのです。
電子カルテの看護記録に記録するだけで情報は共有できます。