車いすクッション

人が自分の道具として車いすを使用する場合、その目的は「安全な範囲で最大限の活動をすること」と言えます。


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患者さんの状況に合わせた車いす選定の他、姿勢保持の観点からも、褥瘡予防の観点からも、ほとんどの患者さんにクッションが必要です。

車いすのクッションを選択する際のポイント


「体圧分散性能」「座位保持性能」「動作補助性能」のいずれの性能が目的を達成するために必要か見極めます。

体圧分散性能


褥瘡発生のリスク軽減を目的としてクッションを選択する際は、接触領域に加わる圧を圧再分配し(クッションに沈め、クッションで包み、経時的な接触面を変化させる)、一点に加わる圧を低く保つものを選択します。

座位保持性能


姿勢の安定を目的としてクッションを選択する際は、ニュートラルポスチャー(適切な調整で安定して平衡が保たれている、その人なりの姿勢)を保持できるものを選択します。

動作保持性能


車いす操作や作業動作の効率化を目的としてクッションを選択する際は、前端を薄くして足漕ぎ動作を容易にするなど、動作を補助あるいは妨げないものを選択します。

 

クッション本体

本体形状


本体の形状は次の3種です。

平面形状


表面に凹凸がなく、内部構造に段差がないものです。
使用の際、前後左右を間違えたとしても褥瘡リスクを抑える効果が損なわれにくいです。
下肢の動きを妨げにくいため、他の本体形状に比べて、足漕ぎ動作補助性能に優れます。

坐骨前方サポート(アンカーサポート)形状


坐骨を前方から支持する段差が表面に設置されているものです。
前後に高低差(前方が高い)があります。設置方向に注意が必要です。
段差による骨盤の前ずれを防ぐため座位保持性能に優れ、すべり座りの予防などに用います。
足漕ぎ目的に限定して評価した場合、動作補助性能は平面形状よりやや劣ります。

コンタ―形状


表面及び内部構造が臀部に沿った形状のものです。
前後左右に高低差があり、曲面で構成されます。座位保持性能に優れ、姿勢の安定に寄与します。圧再分配が可能で体圧分散性能に優れます。体との接触面積が広く、大腿部が安定するため、足漕ぎ目的の動作補助性能を求める場合は形状の調整(前端を薄くするなど)が必要です。
使用の際、設置方向の間違いは厳禁です。

構成材料

フォーム材


フォーム材は気泡の集合体です。
ポリウレタンを発泡すればポリウレタンフォームに、ラテックスを発泡すればラテックスフォームになります。
水分、塩分、紫外線などで徐々に分解されるため、屋外放置や尿失禁後の取り扱いには注意が必要です。

空気室構造


空気室構造とは、一定容量の袋の中に空気を封入する風船状のクッションによって適度な反力を得るものをいいます。
座ると、臀部に沿って本体形状がへこみ、体との広い接触面積を得ることができます。さらに、空気量を増減させることで適度な反力を得るため、微調整が行えます。
体圧分散性能に優れています。
座位保持性能および動作補助性能については不安定感が生じやすい。

ゲル(ジェル)


座ると徐々に形状が変化して体との広い接触面積が得られるため、体圧分散性能、座位保持性能に優れます。
大腿部も沈み、包まれるため、動作補助性能を求める場合は形状の調整が必要です。

三次元網目状構造体

 
さまざまな樹脂で押出成型した繊維を立体的に絡み合わせ、バネ性をもたせたものです。
通気性、透水性に最も優れるほか、耐久性、制菌性にも優れ、水洗いも可能です。
体圧分散性能に優れます。
座位保持性能、運動補助性能はフォーム材とほぼ同等です。



以上の素材を組み合わせたものも市販されています。
カバーを装着すると本体形状や構成材料が見えなくなります。
機会があれば、職場にあるクッションに触って、形状や感触を確かめてみてはいかがでしょうか。
新たな発見や気づきがあるかもしれません。