移乗の介助 移乗環境を整えること
障害を持つ人にとって移動・移乗することは、たいへんな労力とストレスを必要とすることになっているかもしれません。
また、一方で、介助する側の立場では、移乗回数が増えるほど、身体的な負担が増えることにもなります。
ここでは移乗環境を見る視点と、患者と介助者双方にとってよりよい移乗について紹介します。
移乗とは
移動・移乗(トランスファー)
「利用者や物体を1か所から他の箇所へ水平方向に動かす動きである」
持ち上げ(リフティング)
「利用者あるいは物体を縦方向に動かす、重力に逆らった動きである」
このように両者は明確に区別されています。
つまり、持ち上げが多い介助を日々繰り返していると、介助者の体に障害が生じてきます。
移乗にかかわる問題
患者への負担
移乗は持ち上げの要素が多いと介助者主体の動きになり、患者の主体性を奪ってしまう危険性があります。
患者の動ける能力を勘案して介助する必要があります。
また、持ち上げや抱え上げは、患者に急激な動きを与えることになります。
患者にとっては心理的不安感や恐怖感を与え、緊張を高めることにもなります。
さらには、持ち上げや抱え上げによって、不用意な障害(表皮剥離や内出血、骨折など)を発生させるリスクもあります。
介助者の負担
移乗介助によって生じる介助者の腰痛は大きな問題となっています。
欧米では人間の椎間板は25Kg以上の負荷には耐えられないことが実証されています。
近年、リフトなどの移乗機器の普及が進められているものの、まだ十分とは言えない状況です。
移乗介助の方法
患者の能力を生かしながら、よりよい方法を選択します。
また、介助する人数、その職場の技術面など、実際の状況をアセスメントした上で、誰もが安全に行える方法を選択します。
移乗時のポイントは「立ち上がり、方向転換、柔らかい着座が行えるための環境づくり」です。
立ち上がりやすくするためには、座面の高さを下腿の長さよりも少し高めに設定すると効果的です。
床面をすべりにくくする工夫や介助バーなどの設置も考慮します。
片麻痺がある場合は、患者の健側に介助バーを設置します。
ベッドの乗り降りも健側から行えるようにベッドの位置を考慮します。
車いすはフットレストやアームレストの取り外しができると、方向転換時に体に引っかかることがなく、表皮剥離などのリスクも軽減します。
着座では、ドスンと勢いよく座ると脊椎椎体骨折のリスクが高まります。
体幹を前傾し、柔らかく座るように誘導します。
まとめ
回復期リハビリテーション病棟では、リハビリ室での活動だけではなく、生活のすべてがリハビリと考え、「しているADL」の向上を目指します。
移乗の環境を整えることで、患者の能力を生かし、介助者の負担を減らすことができれば、退院後の家族の介護負担の軽減にもつながります。