入院関連機能障害(HAD)について調べてみた

入院関連機能障害(HAD)って言葉を知っていますか。

私は知りませんでした。

入院関連機能障害(HAD)

入院関連機能障害(HAD)とは、入院のきっかけとなった病気とは別に、入院によって生じた機能障害のことだそうです。

入院することで、安静にしていたら、寝たきりになった・認知症がすすんだ・介護度が上がったなど、元気になるはずの入院で起こってしまう様々なトラブルのことです。

実際に病棟で働いていると、そのような患者はたびたびいらっしゃいます。

そのことに名前がちゃんとついてるんですね。

高齢者は入院関連機能障害(HAD)が起こりやすく、発症すれば退院後のQOLが著しく損なわれてしまいます。

そこで、外来や在宅医療を利用し、安易に入院しないことが予防になるそうです。

リスク因子

・高齢者(80歳以上)

・「電話をする」「買い物をする」「食事の準備をする」「家事をする」「洗濯をする」「電車やタクシーに乗る」「正しく薬が飲める」「お金を管理できる」のうち3項目以上で周りの助けが必要となる。

・立ったり歩いたりができない。

・「食べる」「移動する」「洗面や歯磨き」「トイレで用を足す」「入浴」「歩行」「階段の上り下り」「着替え」「排便コントロールができる」「排尿コントロールができる」のうち2項目以上で周りの助けが必要となる。

・がんの転移、脳卒中の既往がある。

認知症が進行している。

なぜ起こるのか

環境変化のストレス(リロケーションダメージ)と廃用性症候群

リロケーションダメージとは、住み慣れた場所からなじみのない場所に転居したりして、環境が変化することでストレスがかかり、心身に弊害を与えてしまうことです。

年齢にかかわらず起こるものですが、とくに高齢者に症状が出やすくなります。

廃用性症候群とは、安静状態が長期にわたって続くことによって起こる、さまざまな心身の機能低下を指します。


「何かあったら病院へ」ではなく「病院へ行かなくても済むようにする」ことが大事となります。
つまり予防が大事ということです。

一次予防:発症予防

むせるので食事形態を落とすとか、転ぶと危ないから歩かせないなど、安易に日常生活を制限させると長期的にはリスクが大きくなる場合があります。

栄養ケア、口腔機能ケア、リハビリを中心に取り組む必要があります。

二次予防:早期発見・早期治療

重症化する前に治療してしまうことです。

早期発見のためには、ささいな事でも気軽に相談しあえるケアチーム作りが必要です。

三次予防:早期退院

入院による機能低下を防ぐためには、一日も早く地域に戻せることが重要です。

退院をスムーズに受け入れられる在宅環境を整えておくように退院支援が必要です。

おわりに

入院関連機能障害について調べてみると、入院前からの予防が大事ということがわかりました。

病棟看護師としてかかわれる部分は、入院前のADLを落とすことなく、病棟生活を行えるように援助することと、早期退院のために退院調整を行うことだと思いました。

口腔ケアに使用する物品と効果的な使用方法

口腔ケアの重要性が広く知られるようになったことに伴い、さまざまな製品が開発、販売されています。
安全かつ効果的に口腔ケアを実践するために必要な口腔ケア用品と、それぞれの使い方を確認していきます。

口腔ケア物品の選択


口腔ケアに使用する物品は患者の口腔環境やADLに合ったものを選択することが基本です。

患者の状況と口腔環境を観察し、どんなケアが必要かを整理してからケア物品を選択します。

とくに、うがいができるか、残存歯があるか、ひどい乾燥があるかどうかといった点で用意する物品が変わります。

在宅でも継続したケアが必要な場合は、患者や家族が使用しやすいもの、購入しやすいものを選びましょう。

口腔ケア物品の使い方

① 歯ブラシ

歯面のバイオフィルムを除去するためには、ブラッシングが必要です。

歯ブラシは患者自身が使い慣れたものを使うのが基本です。

しかし、歯肉や口腔粘膜が脆弱な場合は、軟毛の歯ブラシを選択するといいです。

ブラッシングをするときは、150~200gの圧でブラッシングすることが望ましいです。

目安として、適度な圧になっている時は、歯ブラシを当てたときに、毛先が歯と歯の間に入ります。

また、「シャカ、シャカ」という磨く音が聞こえます。

バイオフィルムは歯磨き粉を使用しなくても、除去することができます。

うがいをできる患者であれば、歯磨き粉を使用することも可能です。


② スポンジブラシ

スポンジブラシは口腔粘膜の汚れを除去するために使用します。

スポンジの目の粗い方が、汚れの除去効果は高いですが、口腔内が乾燥した状態で使用したり、力を入れてこすったりすると、粘膜が傷つくことがあります。

汚れを湿潤させてから、凹凸面で汚れをかきだすように動かします。

もし、口腔粘膜が脆弱で出血するような場合には、きめの細かいスポンジや綿棒タイプの物を選ぶとよいでしょう。

スポンジブラシには、紙軸とプラスチック軸があります。

紙軸は、低コストですが、プラスチック軸と比べて、柄の弾力性がないため、スポンジに直接力が伝わります。

そのため、適度な力加減でケアする必要があります。

また、スポンジブラシは歯ブラシの代わりにはなりません。

スポンジブラシで歯をこすっても、バイオフィルムは除去できません。

そのため、歯がある人には、必ずブラッシングも行う必要があります。

③ 保湿剤


保湿剤は、口腔粘膜を保湿し、保護するために使用します。

ケアの前に使用すると汚染物を軟化させ、汚染物の除去をしやすくします。

保湿剤には、ジェル、スプレー、液状などの種類があります。

ジェルタイプは、粘度が高いため、保湿効果が長く持続し、粘膜保護効果が高いという利点があります。

デメリットは、粘度が高い保湿剤は、塗布時にダマになったり、保湿剤が痂皮化して回収が困難になることがあります。

乾燥がひどく、保湿剤を繰り返し使用しなければならない場合は、前回に塗布した保湿剤をふき取ってから、新たに塗るようにしましょう。

また、たくさん塗っても保湿効果は上がらないので、1回の使用量を守ることも大切です。

頻繁に保湿剤を使用する場合は、スプレータイプを使用すると膜になりにくく安全です。

④ 口腔ケア用ウエットティッシュ

嚥下障害のある患者で、うがい禁止の場合、歯ブラシでのブラッシングの後、口腔ケア用ウエットティッシュを使用してふき取ります。

人差し指に1~2周巻き付けます。

ふき取る際には、指先や指の腹を使います。

また、歯列には凹凸があり、汚染物がはまり込んでいることがあるため、歯茎部から歯冠部の先に向かって1本ずつふき取るようにします。

口腔内をふき取る注意点は、奥から手前へ一方向にふき取ることです。

また、歯肉頬移行部に汚染物が貯留しやすいため、この部分がふき取れているか確認します。

口蓋や上顎歯列の裏には汚染物が残存していることが多く、ふき取り後の確認が必要です。

⑤ 歯間ブラシ

歯間部に残ったプラークや汚れを除去するために使います。

歯と歯の隙間が広くなった高齢の患者の場合、歯ブラシだけでは清掃が困難なこともあります。

歯と歯の間に抵抗なく挿入できるサイズを選びましょう。



製品の特性を知って、効果的なケアを提供し、患者の口腔環境を守りましょう。

片麻痺患者を観る視点

片麻痺患に対するケアにおいて、姿勢や活動が環境に影響されていることに気づく視点をもち、その視点をケアに生かす方法を紹介します。

片麻痺患者の姿勢

脳卒中の後遺症には、運動障害、感覚障害、言語障害、嚥下障害、高次脳能障害(半側空間無視、失行など)などがあります。

片麻痺患者の姿勢は、非対称で、麻痺側に傾いた姿勢が多いです。

人が姿勢を保つには体幹の活動(安定性やコントロール)を必要とします。

体幹の支持力や持久力が低下している場合は、座位、立位のような重力に抗した状況下では、より非対称でくずれた姿勢になります。

片麻痺患者では、非対称的な障害と体幹の問題が、すべての姿勢・活動に影響します。

片麻痺患者を観る視点

片麻痺患者の車いす姿勢をみて、片麻痺だから傾いた姿勢になるのは当然であると思われているかもしれません。

しかし、よく見ると理由はそれだけではない可能性があります。

それは、座っているものの影響です。つまり車いすに座った姿勢では、車いすが座位姿勢に影響を与えている可能性があります。

体に合わない車いすの使用は、圧迫やずれ、不快感や痛みを生じさせ、姿勢の崩れをまねきます。

また、長時間の座位姿勢は、心身機能に悪影響(疲労、褥瘡、誤嚥、筋緊張亢進など)を及ぼすといわれています。

以上のことから、片麻痺患者のケアでは身体面の観察とともに、ベッド・車いすの機能や構造、介助方法といった、患者を取り巻く環境の観察が必要です。

これが環境から人を見る視点であり、ICF(国際機能分類)の観点が必要です。
 

ベッド上での姿勢・活動ケア

ポイントは、褥瘡予防と姿勢のケアです。

ベッド上で過ごす時間は、褥瘡発生や嚥下障害による誤嚥のリスクが高くなります。

そのため、マットレスの影響(体圧分散効果、姿勢安定性など)や衣服のシワによる不快感、圧やずれによる痛みなどに気づく視点が必要です。

そこで、臥位における体圧分散ケア(褥瘡予防マット、ポジショニング)を行います。

車いすでの姿勢・活動ケア

片麻痺患者では、車いすで過ごすことによる障害の予防と、車いすなど環境からの影響による障害の予防が必要です。

① 姿勢の評価

主に肩や骨盤のラインを確認し、姿勢の傾きやねじれの確認を行います。
方法は、触って確認する・写真を撮って写真にラインを引いて確認する・頭上から確認するなどがあります。

② 調整時のポイント

車いすの支持面は、座面・背もたれ・ひじ掛け・足台です。

この中で、特に重要なのは座面です。

座面には、身体重量の84%近くが荷重し、座位姿勢は座面角度や座面シートの素材・形状の影響をうけます。

座面シートはたいていスリングシート(ハンモック状)になり、たわんでいることが多いです。

このたわみの影響で、骨盤が回旋・傾斜・後傾しやすく、姿勢が崩れやすくなるため、たわみを補正して、座面を調整することが大切です。

また、片麻痺患者は麻痺測上肢の重みの影響で姿勢がくずれるため、上肢のサポートも必要です。

③ 移乗

移乗でのポイントは、患者に合わせた移乗環境の調整です。

寝返りや起き上がり、座位保持、移乗のしやすさなどを考慮したベッドの配置や高さの設定、介助バーの使用などが必要です。

例えば、ひじ掛けが跳ね上げられる車いすや、L字の介助バーの使用や、ベッドを下腿の長さより高めに設定するなどです。

環境面を調整することで、座位保持や立ち上がり、移乗などの活動がしやすくなります。

④ 車いす駆動(移動)

車いす駆動のケアでは、まず体と車いすの寸法を合わせることが大切です。

車いす姿勢には、①座面の高さ、②座面の幅や奥行き、③座面の角度などが影響します。

駆動しやすい条件は、
・座面が水平に近い
・座面シートにたわみがない
・足がしっかり床につく高さである
・こぐ足の膝が曲がりやすい
です。
また、座面や背もたれに麻痺側や体幹をサポートするための工夫が必要です。

終わりに

中枢神経障害による片麻痺を改善することは難しいですが、同一姿勢で過ごす時間の調整や管理、ポジショニングや移乗、シーティングといった生活環境の調整や工夫でアプローチすることが可能です。

目の前の患者に起こっている問題が、疾病の影響だけでなく、「環境による影響ではないか?」という視点を持ち、生活全般をとらえることが重要です。

口腔ケアに必要なアセスメント

アセスメントの目的


口腔ケアを効果的かつ効率的に行うためには、まずアセスメントが必要になります。

口腔環境がどのようになっているのかを把握したうえで、その状況にあわせてケアの頻度や手技を決めて実施するというのが手順となります。

口腔ケアの成果を効率化させるキーワードは「均てん化」と「個別化」です。

口腔ケアにおける「均てん化」とは、日常的な口腔ケアの回数や手技を統一し、手技の標準化を図り、勉強会などでその技術を向上させることです。

一方、「個別化」とは、口腔アセスメントにより、口腔ケアが困難な症例を抽出し、歯科衛生士に依頼することです。

歯科衛生士による専門的な口腔ケアで、効果的に口腔衛生状態を改善することができます。

この「均てん化」と「個別化」のためには、まずアセスメントありきです。

アセスメントで口腔内を定量的に評価し、その点数によってケアプロトコールを作成することで、口腔ケアの手技や介入回数の標準化が図れます。

また、歯科に依頼する点数を決めておけば、ある点数以上の場合にはすみやかに歯科に依頼できるようになります。これが上手な多職種連携につながります。

OHAT-J(Oral Health Assessment Tool 日本語版)

OHAT-Jとは

アセスメントシートを導入するにあたって重要なのは、看護師や介護士でも短時間で簡単に評価できることです。

ここでは、OHAT-Jを紹介します。

以下にリンクを貼り付けています。
http://dentistryfujita-hu.jp/content/files/OHAT%20160120.pdf

OHATによる評価法

OHATでは、口腔内の評価8項目(口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛)を健全(0点)~病的(2点)までの3段階で評価します。

① 口唇

 
口唇は内側まで観察します。
口角は軽く閉口させて観察します。

口角の乾燥やひび割れを認めれば1点。

潰瘍や出血があれば2点とします。

② 舌

舌は舌背だけでなく、舌側縁の観察も行います。

舌苔が付着していれば、量、性状、色などにかかわらず1点とします。

潰瘍や出血があれば2点です。
カンジダ性の白斑や舌全体の腫脹も2点です。

③ 歯肉・粘膜

歯肉と頬粘膜は同じ評価項目になっています。

歯肉の腫脹、発赤がある場合、6歯分以下(局所的)ならば1点。
7歯分以上(広範囲)ならば2点。

また、歯周炎による動揺歯がある場合にも2点となります。

粘膜に義歯性潰瘍を含めた潰瘍性病変があれば、1点となります。

頬粘膜のカンジダや扁平苔癬は白色斑として2点となります。

④ 唾液

口腔内が湿潤していれば0点です。

唾液が少量でべたつく、もしくは、泡沫状の唾液をみとめた場合も1点です。

唾液がほぼなく、干からびた状態であれば2点になります。

また、口渇感がある場合にも2点とします。

⑤ 残存歯

残存歯は、う蝕と残根(歯の根っこだけ)の状態について評価します。

う蝕や残根がなければ0点です。

残存歯がなく、上下総義歯を使用している場合も0点とします。

3本以下のう蝕や残根があれば1点。

4本以上あれば、2点とします。

⑥ 義歯

義歯を日常生活で普通に使用していれば0点です。

義歯や人工歯の破折、破損が1部位にある場合は1点とし、2部位以上あれば2点とします。

義歯不適合によって全く使用していない場合や義歯安定剤を使用している場合には2点とします。

義歯の紛失や、入院中に義歯が自宅にある場合も義歯紛失と同じ扱いで2点とします。

⑦ 口腔清掃


口腔内を6ブロック(上前歯、下前歯、右上臼歯、右下臼歯、左上臼歯、左下臼歯)に分けます。

プラーク、歯石、食渣が1~2ブロックに付着していたら1点。

3ブロック以上に付着していたら、2点とします。

口臭が若干あれば1点。著しい口臭があれば2点とします。

⑧ 歯痛

 
認知症などによって自分で口腔内の疼痛を訴えられない人のために、口腔内の疼痛をface scale(0~5)で評価します。

口腔内の問題が原因で、顔を引きつらせる、口唇をかむ、食事をしない、攻撃的になるなどの徴候を認めれば2~3点です。

頬や歯肉の腫脹、歯の破折、潰瘍、歯肉下潰瘍など疼痛を示す身体的な徴候がある場合には4~5点とします。

言動的な徴候がある場合にも4~5点とします。

活用方法


口腔アセスメントでスコア化することで、口腔ケアプロトコールを作成し、ケアを行う時間と回数、方法を決定することができます。

プロトコールを用いることで、口腔内評価と口腔ケア方法の均てん化が図れるとともに、個別に適切な症例を歯科に依頼することが可能になるでしょう。

回復期リハビリテーション病棟の口腔ケア

口腔内の清潔と機能を維持することによって、口腔内疾患だけにとどまらず、咀嚼、嚥下などの機能を健全に維持し、誤嚥性肺炎などの全身疾患を予防する事が知られています。

誤嚥性肺炎に関する口腔ケアの効果として、口腔ケア実施群と未実施群を比べると、肺炎の発生率を約40%減少させる効果があったとの報告もあります。したがって、口腔内環境を整えることは、単に口腔内を清潔に維持することだけにとどまらず、全身状態を良好に保つことにつながるといっても過言ではありません。
 
口腔ケアを実践する際には、口腔清掃向上を目指したケア(口腔衛生管理)だけでなく、口腔衛生管理+口腔機能向上を目指したケア(口腔機能管理)の実践が重要となります。

口腔ケアで知っておきたいこと、考え方

口腔内の環境

1口腔内の細菌数

人の口の中には、300~700種類の細菌が生息しています。
細菌数に関しては、プラーク歯垢)では、およそ1gあたり1000億個の細菌が存在しています。
これは、大腸内の細菌数とほとんど変わらないことになります。
また、唾液中にも最近は多く存在し、1mlあたり1~10億個です。
歯みがきをほとんど行わない人では、1兆個もの細菌が住み着いているといわれています。

バイオフィルムの形成


口腔内細菌は、歯、歯肉、舌、口蓋、義歯などさまざまな部位に付着してマイクロコロニーをつくります。
細菌は増殖する過程で菌体外多糖を産生し、凝集します。

この凝集体は細菌の温床であるバイオフィルムと言われます。

通常、これらの細菌は唾液の作用などによって洗い流されるため、通常の日常生活を送って歯磨きを行っていれば、問題になることはありません。

しかし、絶食中の患者や要介護状態で口腔内管理が不十分な場合は自浄作用が低下するため、プラークの増殖、バイオフィルム形成へとつながっていきます。

バイオフィルムは粘性があり、抗菌薬などの薬物で効果的に除去することはできないため、ブラッシングによる清掃や歯科医、歯科衛生士が行うスケーリングが必要です。

バイオフィルムが形成されやすい部位は、歯周ポケットや磨き残しの多い歯と歯の間、虫歯治療などでかぶせたものの周りなど、ブラッシングでは届きにくい場所です。

口腔内の細菌にはカンジダ菌、黄色ブドウ球菌緑膿菌、肺炎桿菌、インフルエンザ菌など全身疾患につながる原因菌も含まれており、免疫力の低下とともにこれらの菌が増殖して病気を引き起こすこともあります。

適切な口腔ケアとは


口腔内の細菌数は、食後数時間で増殖することと、就寝中の唾液の自浄作用の低下によって起床時にもっとも増殖することが知られています。

したがって、経口摂取をしている人では毎食後と就寝前の口腔ケアが重要となります。

一方、非経口摂取患者の口腔ケアの回数の考え方としては、1日当たりの口腔ケア回数とケア後の細菌数の比較検討や、1日6時間ごとのブラッシングと1日1回のブラッシング+6時間ごとの綿棒清拭での比較検討において、ブラッシング後の細菌数に有意差はなかったとの報告があります。

これは、ブラッシングの回数を増やしても恒常的な細菌数の減少にはつながらないことを示しています。

以上のことから、1日1~2回確実に歯垢を取り除くようなブラッシングを行い、口腔内の乾燥度や汚染度に合わせて、粘膜清掃を2~4時間ごとに追加することが推奨されます。

リハビリテーション病棟の口腔ケア


リハビリテーション病棟の患者では、麻痺や高次脳機能障害認知症などによってセルフケアが自立していない患者が多くいます。

このような患者に対して、やみくもに口腔ケアを行うのではなく、患者の自立度や口腔内の状況を正しく評価し、個々の患者に応じた口腔ケアプランを立案し、継続して実践することが必要になります。

口腔ケアを効率的に進めるための重要なポイントは、ケアの「均てん化」と「個別化」です。
ケアの均てん化では、口腔ケアをおこなう看護師間での口腔内評価を口腔ケア手技の標準化への取り組みが重要です。

日常の口腔ケアを担当する看護師の口腔ケア技術が一定レベル以上になるよう教育を行い、看護師間のケアの差を少なくすることで、口腔ケアの均てん化が期待できます。

一方、口腔ケア困難症例や合併症リスクの高い患者への口腔ケアは、画一的なケアだけでは対応が難しく、歯科医師や歯科衛生士による個別的な介入が必要となります。

この「均てん化」と「個別化」を進めることで、口腔ケアの質を効率的に高めることが可能となります。

チームアプローチで実践する口腔ケア


リハビリ患者への口腔ケアの介入は、医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士など幅広い職種が連携してチームで対応することが重要です。

チームアプローチで取り組むことで相乗効果がうまれ、質の高い口腔機能管理(オーラルマネージメント)を提供できます。

オーラルマネージメントは、口腔ケア、歯科治療、口腔機能向上訓練・摂食嚥下訓練、患者・家族への保健指導などで構成されますが、1職種だけでこれらの役割を果たすことは不可能です。

そこで、チームでの対応が必要となります。

関連各職種がそれぞれの専門性を生かしながら、患者に対応します。各メンバーは、各職種独特の核となる知識や技術の範囲を超えて、幅広い共通の基本的知識や技術を有することが必要です。

「専門職がいないからできない」ではなく、そこに存在する医療職が実践することを心がけましょう。

褥瘡

褥瘡発生リスクの高い患者には、その臥位姿勢や座位姿勢、移動・移乗時の活動を通し、生活する環境をトータルに見ながら、褥瘡の予防や改善につながるアプローチを検討する必要があると思われます。

ここでは、褥瘡発生のリスクに触れながら、褥瘡予防のための姿勢・活動ケアの実際について紹介します。

圧迫・摩擦・ずれによる褥瘡・創傷

褥瘡とは

「圧迫や、圧迫とずれが合わさった結果、通常は、骨突出部の皮膚や皮下組織に限局して生じた損傷である」
と定義されています。

褥瘡ケアでは、褥瘡発生リスクが高い局所だけではなく、姿勢全体の圧分散を考えることが重要です

回復期リハビリテーション病棟でも臥位姿勢に対する褥瘡予防ケアは必要ですが、ここでは他稿にゆずることとします。
座位姿勢の時の褥瘡予防について紹介します。

外力を軽減・解消する介助方法

外力(摩擦、ずれ)は、移乗や車いす姿勢を修正する時などに発生します。
スライディングシートやトランスファーボードなどを活用し、患者がゆっくりと動ける速さで、皮膚を守るとともに、緊張させないように声掛けをしながら介助をします。

車いす上での褥瘡対策


患者が車いすに座る場合でも、座面に敷くクッションや座り方の違いによって、臀部にかかる圧迫やずれは大きく変化します。
車いすの足台が高い(下腿長より長い)場合、大腿部分の接触面積が少なくなり、坐骨や大転子部付近の圧が高くなります。
患者の下腿長に合わせて足台を調整した場合、大腿部の接触面積が増え、坐骨や大転子部付近の圧が減少します。
座面に敷くクッションも、褥瘡予防効果の高いクッションを使用することで、さらに圧分散がされます。


また、長時間の車いす活動では、褥瘡発生リスクが高くなります。
クッションの利用だけでなく、定期的な圧軽減の対策が必要です。
患者自身に褥瘡予防を獲得してもらうことが必要です。
左右への体重移動や、車いす上で体幹前屈することで、坐骨・臀部の圧迫を軽減します。
これらの方法を患者に説明します。

また、褥瘡好発部位を観察する方法も説明します。
脊椎の損傷などの患者の場合、運動麻痺だけでなく、痛みを感じないので褥瘡の発見が遅れることがあります。
手鏡を使って仙骨部を観察したり、踵を引き寄せて観察するよう説明します。
それを実際にできるのか、どのタイミングでするのか、具体的に確認しておくといいでしょう。

シーティング ~安全・安楽・自立を目指した食事姿勢~ 

安全に食べるためには食事時のポジショニングが必要です。
不良な姿勢は摂食嚥下機能を阻害して誤嚥の原因となり、自立を阻害するといったように食べる障害を引き起こします。
食事姿勢を調整して、良好な摂食嚥下機能を発揮し、安全・安楽・自立を目指した食事を支援しましょう。

食事姿勢を決める

食事時のポジショニングの必要性

食事準備から終了の安静も含め、1~2時間は安定した姿勢の保持が必要です。
また、食事は捕食動作による姿勢の変化があるので、安定と同時に上肢を動かしやすい姿勢に調整する必要があります。

食事姿勢の選定

食事姿勢選定のポイントは以下の通りです。

・姿勢の安定性・耐久性
・頚部の姿勢保持力
・呼吸状態・循環動態
・認知機能
・摂食嚥下機能
・食物形態
・セルフケア能力
・拘縮の有無、部位、程度
・褥瘡の有無、部位など

姿勢の安定性・耐久性、頚部の姿勢保持力

姿勢の安定性・耐久性や頚部の姿勢保持力が低い場合は、ベッドやリクライニング車椅子を使用してリクライニング位にすることで、食事摂取による疲労の軽減、姿勢のくずれを予防する事ができます。

呼吸状態・循環動態

呼吸状態・循環動態が不安定な場合は、離床だけでなく、食事による負荷を含めて医師の指示を確認しながら検討します。

認知機能

認知機能低下がある場合は、リクライニング角度を下げると視覚情報がはいりにくくなって食物認知が低下します。リクライニング角度を挙げて、食物認知を高める姿勢の検討が必要です。

食物形態

リクライニング角度が小さい姿勢では、口腔保持が困難となります。その為、咀嚼が必要な食品を提供する場合、リクライニング角度は50°以上にすることが必要です。食物形態をステップアップする場合は、姿勢のステップアップを併せて検討する必要があります。

機能に合わせたステップアップ

過度な抑制にならないように、適宜機能の評価を行い、ベッド⇒リクライニング車椅子⇒スタンダード車椅子・椅子へと段階的にステップアップを検討します。

拘縮や褥瘡の有無、部位など

痛みや苦痛があると、呼吸の抑制や筋の緊張を招く為、安楽な姿勢が困難となります。苦痛の無い姿勢の検討が必要です。

食事の姿勢調整

確認すべき点と調整のポイント

ずれ姿勢

ずれ姿勢では腹部が圧迫されて嚥下に関連する過緊張を招く為、嚥下運動が阻害されます。また、胸部が圧迫されていると、むせた時に十分な咳ができず、喀出しきれなくなります。さらには上肢の運動が制限されて、食事の自立が阻害されます。
ずれ姿勢とならないように座面に深く座り、骨盤が後傾していないかを確認します。
股関節・膝関節・足関節を90°に調整します。

上肢の安定

上肢の安定を図ることで、左右への姿勢のくずれを予防します。
また、上肢の重さをサポートすることで、頚部の嚥下関連筋への負荷の軽減を図ります。
上肢は軽度屈曲位にします。
また、肩の位置が左右対称になるように調整します。

足底の安定

足底を安定させることで姿勢の安定性も向上し、姿勢のくずれを予防できます。
さらに、踏ん張ることができるようになるため、咀嚼力・嚥下力の向上につながります。
また、咳嗽力が向上し、むせた場合にも喀出しやすくなります。
フットレストを上げ、足底を床面に接地します。届かない場合は、足台を使用します。

テーブルの高さと位置

テーブルの高さを腋下から臍の中間の高さに調整し、身体とテーブルを握りこぶし1
個分程度に近づけて設置すると、上肢の安定が得やすくなります。
また、肘をついた状態で捕食動作が可能となることで、姿勢の崩れも予防できます。
食事摂取による疲労の軽減が図れると、食事の自立につながります。
視線が斜め下方向に向き、食事を自然と見ることができるように調整します。

車いす・椅子での食事姿勢

車いすは移動の道具であるため、背面や座面の傾斜、フットサポートの位置や角度などが移動しやすい構造になっています。そのため、食事時には円背や頚部伸展位となりやすく、食べにくく誤嚥をまねきやすい姿勢となります。
また、長期の使用によって座面や背面のシートにたわみが生じると、姿勢がくずれる要因となります。
座位姿勢では、椅子や車いすの形状による姿勢への影響が大きいため、できるだけ体型に合った椅子や車いすを使用することと、座面、背面のたわみの補正などの調整が必要となります。

食事介助が姿勢に及ぼす影響

高い位置からスプーンが口に入ると、顎が上がって誤嚥しやすくなります。
また、左から右手、右から左手で介助すると、逆手介助となってスプーンがまっすぐ口に入らず、こぼれやすすり食べの原因となります。
食べ物が正面に配置されていない場合に、食べ物を見ようとして頚部が回旋・伸展します。食べ物を患者の正面、目から25~30㎝、斜め下45°あたりに配置することで、視線を誘導して頚部を前屈に調整できます。
また、食べ物が見やすい位置に配置してあることで食物認知が高まり、食事への集中が高まり、食事への集中を高めることができます。

まとめ

誤嚥は、患者の摂食嚥下機能の低下だけが原因ではなく、不良姿勢など不適切な食事環境によっておこる場合もあります。
良好な機能が十分発揮できるように食事姿勢の調整を行って、誤嚥を予防し、安全でおいしく自立を目指した食事を支援していきましょう。