回復期リハビリテーション病棟の口腔ケア

口腔内の清潔と機能を維持することによって、口腔内疾患だけにとどまらず、咀嚼、嚥下などの機能を健全に維持し、誤嚥性肺炎などの全身疾患を予防する事が知られています。

誤嚥性肺炎に関する口腔ケアの効果として、口腔ケア実施群と未実施群を比べると、肺炎の発生率を約40%減少させる効果があったとの報告もあります。したがって、口腔内環境を整えることは、単に口腔内を清潔に維持することだけにとどまらず、全身状態を良好に保つことにつながるといっても過言ではありません。
 
口腔ケアを実践する際には、口腔清掃向上を目指したケア(口腔衛生管理)だけでなく、口腔衛生管理+口腔機能向上を目指したケア(口腔機能管理)の実践が重要となります。

口腔ケアで知っておきたいこと、考え方

口腔内の環境

1口腔内の細菌数

人の口の中には、300~700種類の細菌が生息しています。
細菌数に関しては、プラーク歯垢)では、およそ1gあたり1000億個の細菌が存在しています。
これは、大腸内の細菌数とほとんど変わらないことになります。
また、唾液中にも最近は多く存在し、1mlあたり1~10億個です。
歯みがきをほとんど行わない人では、1兆個もの細菌が住み着いているといわれています。

バイオフィルムの形成


口腔内細菌は、歯、歯肉、舌、口蓋、義歯などさまざまな部位に付着してマイクロコロニーをつくります。
細菌は増殖する過程で菌体外多糖を産生し、凝集します。

この凝集体は細菌の温床であるバイオフィルムと言われます。

通常、これらの細菌は唾液の作用などによって洗い流されるため、通常の日常生活を送って歯磨きを行っていれば、問題になることはありません。

しかし、絶食中の患者や要介護状態で口腔内管理が不十分な場合は自浄作用が低下するため、プラークの増殖、バイオフィルム形成へとつながっていきます。

バイオフィルムは粘性があり、抗菌薬などの薬物で効果的に除去することはできないため、ブラッシングによる清掃や歯科医、歯科衛生士が行うスケーリングが必要です。

バイオフィルムが形成されやすい部位は、歯周ポケットや磨き残しの多い歯と歯の間、虫歯治療などでかぶせたものの周りなど、ブラッシングでは届きにくい場所です。

口腔内の細菌にはカンジダ菌、黄色ブドウ球菌緑膿菌、肺炎桿菌、インフルエンザ菌など全身疾患につながる原因菌も含まれており、免疫力の低下とともにこれらの菌が増殖して病気を引き起こすこともあります。

適切な口腔ケアとは


口腔内の細菌数は、食後数時間で増殖することと、就寝中の唾液の自浄作用の低下によって起床時にもっとも増殖することが知られています。

したがって、経口摂取をしている人では毎食後と就寝前の口腔ケアが重要となります。

一方、非経口摂取患者の口腔ケアの回数の考え方としては、1日当たりの口腔ケア回数とケア後の細菌数の比較検討や、1日6時間ごとのブラッシングと1日1回のブラッシング+6時間ごとの綿棒清拭での比較検討において、ブラッシング後の細菌数に有意差はなかったとの報告があります。

これは、ブラッシングの回数を増やしても恒常的な細菌数の減少にはつながらないことを示しています。

以上のことから、1日1~2回確実に歯垢を取り除くようなブラッシングを行い、口腔内の乾燥度や汚染度に合わせて、粘膜清掃を2~4時間ごとに追加することが推奨されます。

リハビリテーション病棟の口腔ケア


リハビリテーション病棟の患者では、麻痺や高次脳機能障害認知症などによってセルフケアが自立していない患者が多くいます。

このような患者に対して、やみくもに口腔ケアを行うのではなく、患者の自立度や口腔内の状況を正しく評価し、個々の患者に応じた口腔ケアプランを立案し、継続して実践することが必要になります。

口腔ケアを効率的に進めるための重要なポイントは、ケアの「均てん化」と「個別化」です。
ケアの均てん化では、口腔ケアをおこなう看護師間での口腔内評価を口腔ケア手技の標準化への取り組みが重要です。

日常の口腔ケアを担当する看護師の口腔ケア技術が一定レベル以上になるよう教育を行い、看護師間のケアの差を少なくすることで、口腔ケアの均てん化が期待できます。

一方、口腔ケア困難症例や合併症リスクの高い患者への口腔ケアは、画一的なケアだけでは対応が難しく、歯科医師や歯科衛生士による個別的な介入が必要となります。

この「均てん化」と「個別化」を進めることで、口腔ケアの質を効率的に高めることが可能となります。

チームアプローチで実践する口腔ケア


リハビリ患者への口腔ケアの介入は、医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士など幅広い職種が連携してチームで対応することが重要です。

チームアプローチで取り組むことで相乗効果がうまれ、質の高い口腔機能管理(オーラルマネージメント)を提供できます。

オーラルマネージメントは、口腔ケア、歯科治療、口腔機能向上訓練・摂食嚥下訓練、患者・家族への保健指導などで構成されますが、1職種だけでこれらの役割を果たすことは不可能です。

そこで、チームでの対応が必要となります。

関連各職種がそれぞれの専門性を生かしながら、患者に対応します。各メンバーは、各職種独特の核となる知識や技術の範囲を超えて、幅広い共通の基本的知識や技術を有することが必要です。

「専門職がいないからできない」ではなく、そこに存在する医療職が実践することを心がけましょう。